活動開始20年の感謝を込めて。サービスグラントのこれまでとこれから
プロボノで解決する「仕組み」
その最適解をつくり続けた20年
写真左から 嵯峨 生馬: ファウンダー。2005年にサービスグ ラントを創業 岡本 祥公子: 2009年入職。2025年4月より共同代表 槇野 吉晃 : 2012年プロボノ参加、2017年入職。2025年4月より共同代表 |
嵯峨:振り返ると、5年ごとに大きな転換期があったように思います。
はじまりは2005年。任意団体「サービスグラントTOKYO」として3つのプロジェクトに取り組みました。そこでの学びは大きく、いくつかの失敗から、仕組み化が大事だと痛切に感じました。2010年は「プロボノ元年」。2009年に大規模なプロボノフォーラムを開催した波及効果で、各種メディアなどでプロボノが取り上げられるようになりました。「プロボノ」という言葉が知られるようになり、登録者数も伸びていきました。
2015年前後にいくつかのことが重なりました。まず、サービスグラントのロゴを刷新するとともに、ビジョン・ミッションとして「社会参加先進国へ」「プロボノを進化させる」を定めました。活動を大きく広げていくためには、事務局だけの力では当然限界があります。そこで、プロボノワーカーのみなさんの手で自立的・自主的にプロボノを広げていってほしい、そんな考え方から、2015年頃からは、複数回プロジェクトに参加している方を中心に、プロジェクト組成の手前から関わったり、企画と実行を担ってもらったりする関係づくりにも力を入れていきました。
2015年は東京都の福祉保健局(現・福祉局)との協働事業として「東京ホームタウンプロジェクト」が始まった年でもあります。この事業は約10年近く続き、大きなインパクトを残しました。プロボノをボランティアの一種として捉えると、市民活動を推進する部局との協働のイメージがありますが、このころから福祉やまちづくりなど、地域や市民の課題解決にプロボノの仕組みを活かす取り組みが広がっていきました。
2020年にはオンライン上で、団体と個人・チームとのマッチングやコーディネートができる社会参加プラットフォーム「GRANT」(リンク)を立ち上げたことで、スピード感のあるプロジェクトや幅広いニーズへの対応の幅も広がり、プロジェクト数も一気に増えました。
それまでは、5名前後のチームを組んでいましたし、1DAYなどの短期間のプログラムもありますが、多くは3カ月~6カ月かけて実施するプロジェクトを中心に行ってきていたので、大きな変化です。
環境や状況や分野、期待などの条件の違いに応じて最適解を探し、作り出してきた20年だったと思います。

20年前に初めて開催したプロボノワーカー向け説明会の様子
岡本:私がサービスグラントのスタッフになったのは2009年からですが、やればやるほど色々な文脈が出てきて、その分広がってきましたよね。サービスグラントがこれまで活動を続けてこられたのは、プロボノの成り立ちが本質的で、どの文脈でも価値が生み出せる多面性があるから。”主体性を発揮し人と人とが助け合う” その可能性にチャレンジし続ける中で、まちづくり、地域福祉、市民協働、関係人口、人材育成、越境学習・・・いろいろな分野での実効性を探求するを20年間だったように思います。
プロボノの多面性を活かすためのチャレンジ。
その中で大切にしてきたこと
槇野:私は、2012年にプロボノワーカーとしてチーム型のプロジェクトに参加したのが、サービスグラントとの初めての関わりでした。参加したのは「ブリッジフォースマイル」さんのウェブサイトリニューアルのプロジェクトです。当時としては大規模なリニューアルで、難しい局面もあったのですが、チーム一丸で取り組んで無事にプロジェクトが終了した時に団体の方がチームメンバーの一人ひとりに手紙をくださって。2回目に参加したプロジェクトでは、プロジェクトが終わって、自分が関西方面に引っ越しをするときに、送別会とともにチームメンバーから手紙をいただきました。どちらも今でも私の宝物です。
こういう関係は普通に働いていてもなかなか得られるものではないだろうと思います。プロボノに参加することで、自分の可能性が見えたり、関わった人たちとの関係性が次につながったり、団体の方が喜ぶ姿を見れたり、その先にいる受益者の方々に届いているという手ごたえを得られたりと、この仕組みは素晴らしいと思い、数年後に事務局に入りました。

2012年「ブリッジフォースマイル」プロジェクト打ち上げにて
嵯峨:サービスグラントがこれまで大切にしてきた価値観として、まず大事なのはNPO、社会課題解決に向けて取り組む非営利団体だということ。そして、その先にいる受益者にどれだけの成果をもたらすことができるかがプログラムのベースになっています。NPOに対して、ビジネスパーソンの貴重な力をいかに発揮していただいて、社会的に最も高い効果を出すかという点を常に念頭に置いています。一方で、効率一辺倒ではない楽しさや遊び心というか、プロボノワーカーのみなさんは余暇を使って参加してくれているのであって、仕事っぽくなりすぎない、といったニュアンスも意識してきたつもりです。
岡本:サービスグラントの立場としては、ホストオブザパーティーであろう、プレイフルでいこう、という思いはありますね。ジャズみたいに、コードは指定するけど主体性は奪わないような “いい塩梅”をずっと意識しています。また、新しいチャレンジを常に忘れないことも20年の蓄積のベースにありますね。外から見ると「どこに向かってるんでしたっけ?」と疑問に持たれることもあるのだけれど(笑)[ok1] 。ただ、日本全体を見渡したとき、サービスグラントが20年活動してもなお、課題解決のプレーヤーの数はニーズに追いついていない。未熟さでもあり、伸びしろでもあると感じます。
槇野:サービスグラントでは、現状維持は後退、という話もよくしますよね。私自身、もともとは現状維持型の人間だったんじゃないかなと振り返っているんですが、サービスグラントに入職してから変わってきた実感があります。「NPOの成果」は「人の変化」ということで言えば、自分自身もサービスグラントというNPOによって変化してきた人の一人。これからも関わる人たちが前向きな変化につながっていくようなサービスグラントでありたいですね。
これからのサービスグラント
嵯峨:槇野さんはサッカーで言うと、全体が見えていて、前を走る選手にうまい球出しをできる人であり、協働先など、各所から信頼される人です。一緒に仕事をしていると、よく観察して、相手のいいところ、自分に活かせるところを吸収しようとしてくれているのが伝わります。
一方、岡本さんはサッカーでいうとフォワード。フリープレーヤーとして飛び回る人です。ソーシャルの活動はどれだけ困難なことがあっても、そこに何を見出して、次どう踏み出すかが大事なので、岡本さんのポジティブさは魅力ですよね。サービスグラントの最大の基盤は支援先団体・プロボノワーカーの方々とのネットワークです。これをどう生かしてこれからの活動を設計していけるかに期待しています。
岡本:社会課題解決に思いを注ぐ1千ものNPO・地域団体等と、仕事を持ちながらも社会課題解決のために何かしようという人が1万人も集まっている。この素晴らしいコミュニティのポテンシャルをどう最大化していけるかというのは命題ですね。
槇野:
参加しやすい機会やプログラムがそろってきましたが、これから先、社会のどんなニーズに応えていくのか。この20年で積み上げてきたものを発信するタイミングに来ていると思います。いま、白書の作成にも取り組んでいますが、発信をきっかけに、これまでとは違う視点で声がかかることもあるかもしれません。個別団体を支援するのではなく、複数の団体と連携して社会課題解決に取り組んだり、調査を通じて課題を可視化したりといったことのニーズもさらに増えてくるかもしれません。
岡本:これまではプロジェクト単位の期間限定的な関わりを積み上げてきたけれど、これからは団体からいつでも相談してもらえて、それを支え続けられるような関係性をつくっていきたいと思っています。今は、社会参加プラットフォーム「GRANT」という協働のインフラが整備されたこともあり、応援の数珠繋ぎによって、NPOの課題が解決し続けられる次の仕組みをサービスグラントが作れる可能性が高まりました。また、「ソーシャルアクションアカデミー」や「社会参加オープナー」(リンク)といったプログラムのように、応援者だった人が主体者になっていく、自らの手で活動を生み出したり、あるいは、既存の市民活動に深く関わっていくキャリアを豊かに築く人がどれだけ現れてくるかは、次の挑戦かなと思っています。
槇野:すでに、ロールモデルとなる人たちが多数出てきていますよね。あるパートナーは、支援を希望する団体の課題を聞くなかで、「いまこの団体に必要なのは、具体的なプロジェクト支援ではなく、自分が伴走して課題を切り出すことなのでは」と思い至り、自ら主体的に団体の課題を整理し、今後はGRANTを活用してその課題にあった担い手のマッチングに進めようとしています。また別の方は、ご自身がお住まいの地域の議員さんに市民活動について感じている課題を共有し、行政職員への提案を自ら進めていきました。どちらも元をたどると、何がしたいか、他の人がどんなことをしていたかなど、プロボノワーカーさん同士での対話の機会があったんですよね。対話の場や刺激があれば、次のバトンを受け取る人が出てくる。気づいて飛び込んだ人からコミュニティが発生し、循環が生まれる。「自立と循環」のかたちで次の世代に向けても広がっていくといいなと思っています。
岡本:サービスグラントは、市民性を育てる社会教育機関のような役割も果たしているかもしれません。社会参加の入り口として安心して参加でき、実践のなかで関心が育っていく。地域でも、特定のテーマでも、自分が特に取り組みたいイシューが見つかって、関心の似た人同士が学びあって自ら動いていき、他者を動かしていく。いまは、行政に頼るだけではなく市民がいかに繋がりながら、、社会課題に関わっていけるかが試されている時代だと思います。なので、まさにサービスグラントのロゴのように課題の輪に入り、他者と協働しながら一つまるっと成果を見出したら、、また次の課題の輪に移っていく、そんな助け合いの循環を増やしていきたいですね。
嵯峨:コミットしたい特定のテーマを見つけられている人というのは、実は少ない気がします。ソーシャルには関心があるけど、自分自身のイシューには落とし込めていない。主体者を増やすために、そこを醸成していくのは大切ですね。
岡本:
サービスグラントは耕し機関。「この指止まれ!」で主体的な動きが生まれてくると、いまとは違う景色が見えてくるのではと思います。安心して失敗できる、トライアルできる場所も提供できるといいなと思っています。
次世代にバトンを渡すことを考えたときに、課題を解決しようと前向きに取り組む大人たちの姿を子ども達に見せるのがとても大事だと思っていて。学びがあっての実践ではなくて、実践があるからこその学び。実行し続けたいと思っている人たちの集まりが「サービスグラント」。そうありたいなと願います。