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「プロボノ×地域づくり」フォーラム
2011年11月2日(水)@全国町村会館 ダイジェストレポート

「プロボノ×地域づくり」フォーラム
2011年11月2日(水)@全国町村会館
ダイジェストレポート

 

■開催概要

日時:2011年11月2日(水)14:00〜17:00
場所:全国町村会館

 

地域づくりの場面におけるプロボノの可能性とは?
自治体・NPOをはじめ、地域づくりの担い手となるさまざまな主体にとって、プロボノとどのようなパートナーシップを結んでいくことができるのか?

 

プロボノと地域づくりをテーマにした3時間のフォーラムには、北は北海道から南は九州まで全国各地から85名の皆さまにご来場いただきました。前半は地域づくりにおいて数々の地域づくりの現場におけるフィールドワークを通じた実践的な研究をされている法政大学現代福祉学部の岡崎昌之教授の基調講演、後半は地域の特性を生かしたユニークな地域づくりに取り組む3名の自治体職員の皆さまをパネリストに、地域づくりにおけるプロボノの試験的取り組みについての状況報告、プロボノと地域づくりの可能性等についてパネルディスカッションを行いました。

 

 

<第一部>基調講演

 

「地域づくりにおけるリーダーシップと協働のあり方」
法政大学現代福祉学部教授 岡崎 昌之氏

 

公的な市場の失敗と日本の地域社会の課題

私自身、全国の過疎地、あるいは離島や産炭地域の再生に関心を持ち活動を行って参りましたが、プロボノは地域という視点からこそ色々活用できると感じています。

 

日本の地域づくりは、高度経済成長期においては、社会資本整備(道路や橋の建設、公共施設の整備、またそれらを円滑に運営する制度設計等)が中心的なテーマで、その結果、日本の社会資本の充実度は高まりました。しかしそれにもかかわらす、現在、日本の山間部では過疎化が進んでいます。日本は従来型の社会資本整備だけでは、地域づくりを全うすることはできないことが明らかになってきました。私たちの足元は今どうなっているか。高齢化、教育格差、エネルギー、環境問題など、多くの地域でコミュニティレベルにおいてさまざまな問題が起こっています。今までは“公的な市場”でそれらの課題解決をしてきたわけですが、そうした公的な市場の失敗、欠陥が露呈してきたということができます。

 

こうした課題を、後ろ向きな課題として捉えるだけでなく、少し将来的な展望を持ったときに、どのような可能性がこの先の日本の農山村地域、地方都市などにおいて存在しているのでしょうか。私は現在、東北をフィールドとして幾つかの集落を訪ねておりますが、集落レベルの生活技術、テクノロジーではなくスキル・技というようなものが、日本の集落の中にはたくさん蓄積されてきたことに気付きます。しかもこうした伝統的な文化は、文字ではなく口頭や行動で伝え継がれています。土間を作ったり、石垣を作ったり、味噌を作るといった、こうした生活技術は、これから10年の間に後世に伝えておかないと、消えてしまうという状況です。

 

“共”という市場を担う若い世代の登場

 

そんな中、例えば新潟県の「かみえちご山里ファン倶楽部」のように、集落の生活技術をDVDに残すという活動をしているNPOもあります。そこには、若く、しかも大学院を出られたような優秀な方々が、地域社会に根付き、環境教育などの取り組みに関わっています。しかも、こういう人たちが今、北海道から沖縄まで点々と存在し始めています。地域をピンポイントで選び、Iターンとしてその地域の中まで入っていって、その地域の再生に命を削るという方々が、団塊ジュニアの人たちから出ているのではないか、期待も込めながら、そう思っているわけです。

 

彼らの果たす役割というのは、本来の“公的な市場”だけでは解決できなかった、かといって“民間の市場”だけでもなかなか解決できない二つの市場を結び込んでいくことであるように思います。混ざり合った公と民というのでしょうか、公と民とが一歩ずつ交わったところに“共”という空間・市場が生まれています。そういった“共“という市場を拡大する中で、さまざまな地域の課題の解決が可能な部分も出てきているのではないでしょうか。美しい景観を作る、集落の遺産を守る、こうした地域づくりの取り組みは民間の協力なくしては生まれてきません。公と民が連携して、“共”市場のようなものを拡大していくことが求められています。

 

では、どのようにすればよいのでしょうか。住民同士の信頼関係、あるいは地域社会の安全性の確保、また地域と行政との連携がうまく保たれている、そうした信頼感であったり、安全性・連携性が高い地域において初めて、 “共”市場が生まれるのではないでしょうか。その中でこそ、課題解決ができる社会が生まれてくると思います。そして、そういう期待をしながら、次の世代の活躍を待っている、というのがいまの地域の現状でもあるのだと思います。

 

地域の力を一つの方向性に束ねていくリーダーシップ

 

さらに、地域づくりにおいては、地域のさまざまな力を一つの方向性に束ねていくリーダーシップのあり方が、非常に強く作用しているのです。

 

徳島県上勝町の「いろどり」は、“葉っぱビジネス”で有名ですが、高齢化率49%の町でITを活用してお年寄りの活動の場づくりに成功しています。鹿児島県鹿屋市串良町の「やねだん」では、Uターンしたリーダーが大学や民間企業と協働して、新たな事業を手掛けたり、さまざまなアイデアで地域づくりに貢献しています。少子高齢化という地域社会の課題、お年寄りの活躍の機会をどう作るかという課題に向き合いながら、お年寄りの居場所・出番・役割をきちんと作って、しっかり利益をも出していく。そうした仕組みを作るというところで、リーダーシップが発揮されています。

 

集落における強い生活力(自分自身が生きていく暮らしぶりにおいて、山に行ったらきのこを取ったり、家は全部自分で修理するといった生活技術)に立脚しながら、地域内外に向けた広範で強いネットワーク性を保持している。仮に自分で解決できないことがあれば、そのネットワークの中から専門的な知見を引き出して、専門家を一緒に参入させながら、課題を解決していく。そういうことを容易にする新しいタイプのリーダーシップが求められていると思います。と同時に、そのリーダーを支える住民のフォロワーシップ、リーダーに課題が出てくればリーダーシップをきちんと交代できるフォロワーシップの準備や蓄積、そういった連携性をどう日常から蓄積していくことができるか、ということが問われている時代になってきたのではないでしょうか。

 

 

<第二部:前半>事例発表

 

兵庫県豊岡市副市長 真野毅氏プレゼンテーション
「豊岡市コウノトリと環境政策におけるプロボノ活用事例」

 

豊岡市は、兵庫県の北部に位置し、面積約700平方キロメートル、東京の100分の1の人口で、23区よりも広い地域を経営していかなくてはいけません。

 

自然に恵まれた但馬豊岡ですが、戦後の高度成長期、農薬により身近な自然を自分たちの手で壊していく現実がありました。その結果として、1971年にコウノトリが絶滅したわけですが、このことは、自分たちの生活が脅かされているのと同様だと感じ、以来、コウノトリを自然へと帰す活動に必死に取り組んできました。こうした運動の中で、環境をよくすることで経済がよくなる、そして、経済がよくなることでより環境に貢献できるという循環型社会の実現を目指すようになりました。私たちの取り組みはCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)において、自然環境の保護だけでなく経済効果もある実例として取り上げられています。

 

今回、プロボノに着目したのはサービスグラントのNPO支援の枠組みが、行政でできないサービスを民間の力で解決する実例につながるのではないかという期待からでした。先にも申しましたように、私たちは、環境への取り組みを地域づくり政策の一丁目一番地として位置付けています。豊岡市のこれからを作っていく、最も尖ったところだからこそ、プロボノを取り入れていきたいと考えました。

 

また、現在、豊岡市では年に800〜1,000人の人口が減少しています。定住人口を増やすことも努力はできるが日本全体の人口減少下では難しい。そこで、域外の人に豊岡の生きざまを理解してもらうことで人の行き来を促しながら、域外との「大交流」を実現したいという構想を持っています。プロボノワーカーのみなさんと連携することで、マーケティングという考え方、若い人たちのチーム力、スカイプなどを使った仕事の進め方など、さまざまなレベルで、プロジェクトに関わる豊岡市職員自身も学ぶことが多々あるのではないのかという期待もありました。都会の若い人たちに豊岡を見てもらう機会を作りたいという思いもありました。

 

お願いしたのは、豊岡市公式ホームページ内の「コウノトリと環境」というコンテンツの改善でした。短期間に集中したヒアリングを行い、みっちりと情報収集していただいた合宿をはじめ、複数回の提案を重ね、最終的に、命をはぐくむ、心をはぐくむということを伝える、ということをコンセプトとする新しいウェブサイトが出来上がってきました。

 

北海道下川町地域振興課長 春日隆司氏プレゼンテーション
「下川町環境未来都市政策におけるプロボノ活用事例」

 

北海道下川町のことをご存知の方は少ないかもしれませんが、下川町は、スキージャンプのオリンピック選手を多数輩出した町です。同時に、下川町は、日本でいちばん多くの木材を産出した町でもあります。

 

下川町では、毎年伐採と植林を続けながら、60年サイクルで森林を維持する持続可能な森林経営に取り組むと同時に、多種多様な木材利用を行っています。森林を維持することは、一般的に、短期的なメリットが見えにくいものです。しかし、長期にわたる持続的な森林経営を基盤として、下川町では、バイオマス利用によるCO2の削減、森林と環境を軸とした地域産業の振興、生活環境の改善ということを、一連の流れの中でつながりをもって実践しています。最近では、CO2の吸収量を貨幣価値に変換できないかということで、カーボンオフセットの制度を大学や企業の協力を得ながら導入しています。また、音楽家坂本龍一さんの活動「more trees」の一環として、カーボンオフセットとして下川町の森林整備に参画いただいたりもしています。

 

下川町では、環境に負荷をかけないことと、より良質な生活をめざすこととを両立するような、新たな取り組みをしていますが、新たな取り組みを行うと、既存のシステム、既存のやり方では限界が生じます。そこでプロボノを導入しました。新しいことに取り組むには、新しい仕組みが必要だということで、プロボノに関心を持ちました。

 

神奈川県かながわ県民活動サポートセンター 吉田信雄氏プレゼンテーション
「かながわプロボノプロジェクトの実践と被災地復興支援プロボノの可能性」

 

私は、NPOの仕事にかれこれ10年くらい関わり、今は、3月から東日本大震災のボランティア活動支援を担当しています。岩手県遠野市に神奈川県がボランティアの支援拠点を構えており、そこから岩手県の沿岸部、大槌・釜石・大船渡・陸前高田等に対してボランティアを派遣していく取り組みをしています。

 

今日は、神奈川県で取り組んだプロボノプロジェクトの基本的なコンセプトをお話ししたいと思います。

 

私は庁内でプロボノの企画を立てるときに「チェンジアップ」というキーワードを使いました。私もNPOの仕事に関わって長いので、ずっと考えていたことは、NPOにもいろいろなステージがあるということです。活動が始まったばかりの草分けの時期は、年間予算50万円以下くらいで、社会貢献をするというよりは、ボランタリーな想いを実現させたいという感じです。そこから始まって、社会問題を解決していくことがだんだんと仕組み化し、社会の構造を変えていく存在となることを目指すようになるわけです。そうすると、助成金を獲得しながら団体を大きくし、最終的には団体を自立化させていく、というところに向かいます。こうしたときに、NPOを開かれた経営まで持っていくため、というのが、プロボノ事業のコンセプトでした。NPOが、プロボノワーカーの方たちと一緒になって経営戦略を考えていくとか、そのアウトプットとして、ホームページを作るとか、新しく寄付を集めるとか、目標とする成果はNPOによって異なるかもしれませんが、NPOに対して、キャパシティビルディング(基盤構築)につながる支援、経営能力を高めるような支援をしていきたい、と考えたのです。

 

具体例を一つ挙げると、NPOカタリバという、東京ではかなり有名な、社会起業家とも呼ばれる団体があります。このNPOは、公立高校の先生と仕事をしていくことが多いんですけれども、学校側になかなか話を聞いてもらえないということがあって、その問題を解決することで彼らのキャパシティビルディングをお手伝いしようということでした。原因を探ると、彼らは、若者を惹きつけるようなホームページをつくるチカラはあるのですが、高校の先生が日頃手にしているような、どちらかというと地味な資料を作る能力に長けていない。それが原因で、いろいろな学校に活動を広げたいと思っても、活動をどう伸ばしていくか悩んでいたわけです。彼らには地味な資料でも、先生にとってなじみのある資料のほうが理解してもらいやすいし、その方が彼らの活動が広がる結果につながりやすいわけで、経営コンサルタントやシンクタンクの職員と一緒になりながら、カタリバの高校の先生向け資料をプロボノで作成しました。

 

それから、震災の関係ですが、僕がまだ震災関連でプロボノの企画を実際にやったわけではないので、想像でしかないんですけど、岡崎先生の生活技術を生かした地域づくりということは、まさにそうだと思って聞いていました。今、私が付けているのは、寄付された毛糸を、仮設団地で閉じこもりがちな女性たちが手作りで作ったものです。多分、こういうところにプロボノの方が関わって、ベタに「震災」を売っていけばいいのか、「手作り」の良さを売っていけばいいのか、マーケティング戦略を考えるのはどうかと思います。こういうことは、作り手側・当事者の側が考えてしまうとどうしてもうまくいかない部分でしょう。

 

被災地における情報格差も課題です。情報に触れる機会の多い方は、市役所の支援物資情報などをこまめにチェックできていますが、十分に情報を入手できない方も出てきてしまっています。元々あった地域の媒体がなくなってしまったり、隣の人から情報を得ていたコミュニティが崩壊したり、避難所や仮設住宅よりも在宅で避難している人が情報を得られないなども起きています。実際に情報が伝わっていれば受けられるはずの支援を受けられなかったりすることがないよう、情報格差を埋めていけるような支援もプロボノでできるのかもしれません。

 

◎岡崎先生コメント

 

これだけ地方都市が疲弊している先進国というのも世界的にない、非常に厳しい状況です。シャッター通りといういい方がありますが、シャッターという言葉が商店街を語る言葉になっているということは、西ヨーロッパや北米では見られないのです。

 

豊岡市の取り組みではプロボノというものがどのような関わりにあるのかということを見せていただいて非常に意義があったと思います。下川町の取り組みも環境問題に関する取り組みに、プロボノの仕組みを取り入れられているということで、関心を持たせていただきました。神奈川県につきましては、NPO先進県でありますので、NPOにとってきわめて重要なテーマである「キャパシティビルディング」に、プロボノというものとうまく橋をかけられていると感じました。

 

特に震災のことについては、これからプロボノという視点を取り入れていかなければいけないと思います。これからも注目をさせていただきたい、私も何かやってみたいなと思います。

 

◎嵯峨コメント

 

みなさんの仰っていることには共通点があります。それは、新しく伸びていくところ、エッジの立ったところにプロボノという仕組みが必要であり有効でもある、ということです。なぜかというと、新しいことに取り組むときには、これまでと同じことを繰り返し継続するのとは違って力が必要です。いろいろな力を集めて試行錯誤もしていくことになります。多方面から情報も収集しなくてはいけません。こうした場面においてこそ、プロボノの出番があるのでは思いました。

 

 

<第二部:後半>パネルディスカッション

 

 

三つのテーマにてディスカッションが展開されました。

 

[1] 今までの地域づくり、市民参加のさまざまな手法とプロボノとの間に違いがあるとすると、どういった違いがあるとお考えでしょうか。

 

真野氏:行政の場合には、○○策定委員会のような会議体が立ち上げられ、計画の検討や策定はするが、計画はできても、アクションに結びついていかないという感じがしています。それに対して、プロボノは成果をきちっと出すということが求められるのですね。まちづくりのためにみんなの考えをまとめていくだけでなく、きっちりと形に残る成果を出す、そこが違うのではないかなと思います。それと、ビジネススキルを持った若い人たちが地域に入るわけですが、単にスキルがあるだけでなく、そこに「想い」がある。ですから、プロボノとの「協働」が、単にビジネスライクな関係ではなく、心が通じた仲間として、血の通った形で実現していくので、非常に良い仕組みだと私は思います。

 

春日氏:行政が民間と何かを作る場合、業務委託といった形で契約の上で取り組みます。それは、組織対組織の関係です。組織対組織で取り組むメリットとは、成果の確実性があることです。それに対して、プロボノには、契約で縛るような確実性はありません。それから期間については、委託の場合は短期的に行うこともできるかと思いますが、プロボノの場合は時間がかかります。

 

ただ組織対組織のデメリットとしては、新たな視点が出しにくいこと、それから、自治体にとってみればコストの問題も大きいです。プロボノを利用するメリットには、心あるプロフェッショナルの方が入っていただくということがベースとなります。しかも、コストを削減した形で成果が得られます。それから、終わった後も、プロボノワーカーのみなさんとは交流を図れるだろうと思います。もしかしたら、プロボノワーカーのみなさんとのつながりの中から、将来、下川で起業家になってくれる人が生まれる可能性もある。こうした期待は、通常の契約では得られないことです。

 

吉田氏:震災復興もそうなんですけれど、ボランティアというキーワードに対して考えるところがあります。ボランティアはどちらかというと自分がやりたいことをやるという目線が強いのではと思うんです。プロボノは、おそらく自分がやりたいということではあるけれども、求められて自分ができることをする。発想が違うのではないか、という感じがしています。これまでは、ボランティアしたいという人に対して、まずは被災者と状況を共有しよう、思いを共有しよう、ということを合言葉にしてやってきましたが、今後はだんだんとそれがシフトしていって、協働する立場、お互いに対等に復興に立ち向かっていこうという関係に変わりたいなと思います。

 

岡崎先生:手法というと、限定されたテクニックのようなニュアンスがあるのですが、地域づくり・地域再生というのは、そこに居住していた人自身にとっても、地域を相対化する、客観的に地域を捉え直していく作業が非常に重要だと思います。海外に出て日本のことを再認識することを、よく経験します。そういう風に、常に地域を客観視・相対化するような作業の積み重ねは、地域の再生を図っていく上で非常に重要な視点ではないかと思います。

 

そういう点では、プロボノワーカーという、別の知見、別の地域で育ってきた人たちが地域に入って、そこで何を感じるか、ということを地域の側が、いかに受け止めるか。外部の目とか、相対化していくことを地域のなかに受け止めていくということに重要な意味があると思います。

 

嵯峨:客観的に地域をどう捉え直していくかということの参考としまして、サービスグラントでは、約6ヵ月間にわたるプロボノプロジェクトの半分近い時間を「マーケティング」に使っています。ウェブサイトなどの成果物を制作する前の段階で、誰にどういう変化を起こさせることを目指してウェブサイトを作るのかという、人の行動変容をどのように起こさせるかを考えることにかなりの時間を使います。こういう部分が、最も自治体としてお金を出しにくい部分でもありますが、これからもっとノウハウが培われていくべき部分だと思うんです。地域には、こういう人たちがいる、その中でこういう人たちが重要だ、というリサーチからスタートして政策を打ち立てていく。こうしたマーケティングの作業は、自治体にとっても予算を含めリソースが割きづらい部分でもありますが、しかし、地域を客観的に捉え直すという新しい発見につながる重要な部分だと思います。

 

もう一つ、自治体のホームページというのは、商品やサービスを売る場だけではなく、政策を伝える場である、ということを押さえておく必要があります。政策について正しく伝えた上で、見た人たちが、その地域に足を運んでみようとか、特産品を買ってみようとするという、実際の動きにつながるようなホームページにしていくためにはどうすればよいのか。まだまだこれから研究される余地があるテーマだと思います。自治体のホームページというのは、政策に関連して動いている地域のさまざまなNPO、事業者、地域活動団体の力を束ねる、まさに岡崎先生のおっしゃるようなリーダーシップを発揮することができるポジションにあるのではないかと思うのです。地域の力を活かす形で情報発信を実現することが、結果的に、地域の民間の動きに効果をもたらしていくという、まさに、公と民の双方の有機的なつながりを生み出す市場としての機能が、豊岡市や下川町のホームページでは形になったのかもしれません。そうした視線で、ぜひ両自治体の新しいホームページをご覧になっていただければと思います。

 

[2] プロボノを通じて現場の担当職員など自治体内部や地元の事業者、NPOの方々に変化はありましたか? あるいはこれから変化が起こりそうでしょうか?

 

真野氏:担当の職員がマーケティングの本を読み始めるなど、職員もそういうことが大切なんだということが分かってきました。仕事の仕方の中でも、変化がありました。プロジェクトでスカイプを使用し、こういう仕組みはいいねという反応でした。そういう仕事の仕方をしている人と一緒に仕事をさせてもらって、自分で使ってみないと分からないということなのかなと思います。今後、プロジェクトが完了し、ホームページを公開した時点でアクセス数が上がるようになると、いろんな人が動き出すかなと思います。そういったところを期待して今後も進めたいと思います。

 

春日氏:最初は、庁内では「プロボノ」とは何だそれ?という反応でした。そこで、プロフェッショナルの人が、ボランティアで地域に参加することです、と伝えました。いまはどこの自治体もそうですが、財政が厳しいですので、それは助かるね!と思われます。それがプロボノの本質かどうかはさておきとして、庁内で理解を得る上では、そういうアプローチの仕方もあるということですね。いま考えていることは、新しいホームページができるわけですけれども、私たちの町がそれに対応できる状況なのか、といったら疑問があると思います。ただ、どちらが先かということだと思います。私たちが選んだ手法は、地域では不十分な状況でも、外からの知恵を取り入れることで自分たちの意識を変えていこうということでした。そうしないと地域は生き残っていけない、という認識のもと、一歩ずつ前に進めていかないと何も解決しない。そういう思いから、プロボノを受け入れました。

 

吉田氏:これからの部分でお話をしますと、私はいま毎週のように遠野に足を運んで現地でできることを見つけているのですが、復興支援の中でプロボノを取り入れていけたらいいのではないか、と思っています。いま、事業所が再開したり、仮設の商店が復活してきています。ウェブ業者に払うお金が無いからではなく、たとえばビジネスとして魚屋をもう一度やる、そこにどういう意味があるんだろうというところに、外から来た人が関わりながら、客観視して情報発信していくという部分も大きいのではないかと思うんです。

 

ただ、そこが言葉にできていなくて、自分は、ウェブサイト制作がいいんじゃないかと思っていたけど、なんで? といわれると言葉が出てこなかったんですが、先ほどの岡崎先生のお話を聞いて、自分を相対化する作業として効果的なんだなということが分かりました。

 

嵯峨:参加したプロボノワーカーにとっては、成果物を提供した、ということもさることながら、その後、成果物を活用することで、支援した組織(今日のテーマの場合は自治体)がどう変化するか、その組織の先にいる一人ひとりのステークホルダーにどのような効果がもたらされたのか、という点が大きいところです。その中には、短期的に出る成果と、中長期的な成果の二つの視点があると思いますし、これから研究していくべきところと感じています。

 

[3] 広報物、情報発信というもの以外で、自治体や地域のどのような団体のどのような課題に、プロボノのニーズがあるかお話しいただけますでしょうか。

 

 

真野氏:最初は嵯峨さんとお話ししたときに、豊岡の戦略を作れないかという話をしていたんですが、戦略を作るときの成果物って何だろうということが設定しにくかったんです。いま、豊岡市においては、エコバレー構想を軸とする環境経済政策について、エコバレー推進室を中心としつつ、全課で取り組んでおります。そのためにはどんなことが必要なのか、各課で知恵を絞っています。例えば、エコポイントをつくるといったアイデアも出てきています。こうした、一つひとつの施策・プロジェクトごとに、専門性を持つプロボノの人たちに一緒に企画や検討に入ってもらえるものがあれば、アイデアもより洗練されていくのではないかと思います。ウェブサイトのリニューアルを機に、このあと、どんなコンテンツを発信していくか、新しい取り組みを継続してやっていくことが大切なんじゃないかと思っています。

 

春日氏:プロボノはいろいろな自治体の課題解決に使えると思っています。例えば、福祉の分野でこういうことをやってみたいということであれば、福祉に関するプロボノの誘導ができるようになるでしょう。ただ、自治体は組織でやっているわけですから、プロボノを導入するにしても、庁内を説得していくのは非常に難しいことだと思います。

 

私が今、考えているのは、外部資金を使ってプロボノをやることです。企業がCSRとして、一緒にやっていくというように外部資金を活用していくことによって、より加速化されていくのではないかと思っています。自治体も説得していくのは非常に難しいことだと思います。ですから、資金をつけてやることが加速していくために必要だと思います。

 

吉田氏:インターネットを使ったコミュニケーションが加速してきたのに伴って、どのような組織デザインが一番いいのかということが、ますます問われてきていると思います。組織がフラット化していかざるを得なくなってきています。NPOは、従来のようなカリスマがいて一人が全部を決めているんだという組織構造が成り立たなくなってきているんです。自治体のヒエラルキー構造の組織も同じことがいえるんですね。まず、自立した自己責任の個々人がいて、それぞれがインターネットで情報や状況を共有しながら協働していく。そういう協働型の組織デザインへプロボノとの協働の現場の中で、根本的な組織のあり方論という部分を一緒に考えていかなきゃいけないところに来ていると思います。現在、被災地で行われている活動は、日本人が一番成果を上げることができるチームビルディングのあり方、組織デザインのあり方を、新しくデザインしていく実験場になり得るのかな、と思います。

 

岡崎氏:現場から何か新しいことを立ち上げるとすると、解決しなきゃいけないことがいっぱい出てくる。地域づくりで何か新しいことをやるときは、だいたいそうです。個人が頑張ってブレイクスルーしながら新しい展開を示して、住民との協働を進めていく。それを首長なり管理者がどう認めて、全体をどう進めていこうと意思統一するかということが重要ですから、プロボノを受け入れる自治体側が、プロボノの提案をどう受け入れ、自らをどう変えていくのかが重要となってきます。

 

企業は企業で、そういうところに出て行く人をどういったスタンスで送り出していくか、そうしたことが、今後問われるのではないでしょうか。

 

プロボノワーカーがただ単にボランティアとして限定的に地域に入るだけでなく、その人たちのその後の人生を受け入れるような経験になる可能性もあると思います。下川や豊岡に移り住もう、というほどまでに思い切りをさせるような、地域側の背中の叩き方も考えていいのではないでしょうか。そのうち、いま以上に多くの若い人たちが、農山村で自己実現ができる生活をしたいと必ず思い始めると思います。いまの若い人の多くは、所有欲よりも、存在欲、自分が存在していることを周囲から認めてもらいたい、自分がやったことが周囲に認められて、周囲を変えることができる、そういった欲望の方が強くなっていると思います。企業のいろいろなノウハウを持った人たちも、自己実現していくことを価値観として持っていて、そういう人たちと地域がどう渡り合っていくか、さらに企業の側がどのように後押しをしていけるか。こうしてみると、目先のスキルの活用という以上のいろいろな広がりがありそうです。

 

 

終わりに

 

最後にパネリストのみなさまにコメントをいただきたいと思います。

 

 

真野氏:地域でいろいろやってますと、今まで高度成長期に地域を支えてきたさまざまな組織、自治会・商工会・観光協会などの役割が時代についていけなくなってきたと感じることがあります。その中でNPOの方々が地域の新しい課題に対して活動していく場が、どんどん増えていってほしいなという思いがあります。その応援にプロボノの方が参加されるようになっていくといいのではないかと思います。地縁の組織は守りには強いが、攻めるときには弱さがあると思っています。地域として攻めていく部分で、機動力のあるプロの知識が欲しいなと思います。プロボノの方がそういう役割をしてくれるんじゃないかと期待しています。

 

春日氏:地域が活性化して、成長・発展していくために必要なものは、技術であり、才能であると言われてきました。私たちの町では、昭和30年代前半に今日の基盤を築いた人たちが、当時、“出張先のない出張命令”と言うのでしょうか、「1週間帰ってくるな、どこにでも行ってこい、研究してこい」と言われたんだそうです。その方々が今日を築いたのです。

 

過去の話を、私なりに解釈してみると、好きにやれ、ということではないかと思います。そして、地域づくりの中で、やりたいことがあるとすれば、部下が上司を管理するようなマネジメントを実現する必要がありますね。“管理”という言葉は不適切ですけど。そのためには、強い意志がベースになると自分に言い聞かせています。

 

吉田氏:プロボノは、日頃付加価値の高い仕事をされているようなその道のプロが、スキルを惜しみなく活かして、いわゆる公共のためにボランティアをすることなので、会場の雰囲気を察すると、それを促進してしまうと、この国に何かとんでもないことが起きるのではないか、そういう期待を持っていらっしゃるかもしれないんですけど。そうなのかなとも思うし、そこまで大げさなことなのかなとも思っています。いずれにしても、もともと何か新しいことにチャレンジしたいというボランティア・NPO・社会起業家という存在に期待していた我々にとって、プロボノという関わり方がさらにうまれたことで、もともとの考えよりも、全然違うさらにスゴイ社会イノベーションが起こせる気がするね、プロボノって。というところが、プロボノの深さというか幅の広さ、そんなものを学べたのかなと思います。

 

嵯峨:非常に白熱した議論で、あっという間の3時間でした。ありがとうございました!

 

 

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