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【開催レポート】ソーシャルアクションタンク シンポジウム2022

【開催レポート】ソーシャルアクションタンク シンポジウム2022
―女性が活躍しやすい社会をデザインする―

 

サービスグラントが運営する「ソーシャルアクションタンク」では、アカデミズム×プロボノの新たな挑戦として、社会科学の研究者とプロボノワーカーによる協働研究プロジェクトを推進しています。
2021年夏からスタートした第1期協働研究プロジェクトでは、国際社会において長年にわたって日本が低迷し続けているジェンダーギャップ指数に着目し、「女性が活躍しやすい社会をデザインする」をテーマに、3人の研究者と15人のプロボノワーカーによる熱のこもった議論と研究が展開されました。
「ソーシャルアクションタンク シンポジウム2022」では、その研究成果を、プロジェクトを担当した研究者およびプロボノワーカーより報告いただき、総括とともに、社会に向けた提案を行いました。
本レポートでは、シンポジウムの模様を、各プロジェクトの成果物と併せてご紹介します。

 

※「ソーシャルアクションタンク シンポジウム2022」は、2022年2月3日、オンライン/Zoomウェビナーにて開催しました。

 

<目次>
第1部 基調鼎談「2030年 日本社会のアジェンダ」
橋本 努 氏 / 北海道大学大学院経済学研究院教授
坂口 緑 氏 / 明治学院大学社会学部教授
嵯峨 生馬 / 認定NPO法人 サービスグラント代表理事

 

第2部 研究報告「プロボノリサーチプロジェクトから見えてきた社会課題の深層」
① 育休や短時間勤務による人事考課への影響とは
大槻 奈巳 氏 / 聖心女子大学人間関係学科教授
プロボノワーカー代表者

 

② 女性管理職が受けるセクハラ─実態と特徴
金井 郁 氏 / 埼玉大学人文社会科学研究科教授
プロボノワーカー代表者

 

③ 日本企業におけるダイバーシティ&インクルージョン
大塚 英美 氏 / 神戸学院大学経済学部講師
プロボノワーカー代表者

 

第3部 パネルディスカッション「女性が活躍しやすい社会をデザインする」
[パネリスト]
大槻 奈巳 氏 / 聖心女子大学人間関係学科教授
金井 郁 氏 / 埼玉大学人文社会科学研究科教授
大塚 英美 氏 / 神戸学院大学経済学部講師
橋本 努 氏 / 北海道大学大学院経済学研究院教授
坂口 緑 氏 / 明治学院大学社会学部教授
石原 英樹 氏 / 明治学院大学社会学部教授
[モデレーター]
芹沢 一也 氏 / 「シノドス」編集長

 

※登壇者のプロフィールはこちら

 

第1部 基調鼎談「2030年 日本社会のアジェンダ」

 

橋本 努 氏 / 北海道大学大学院経済学研究院教授
坂口 緑 氏 / 明治学院大学社会学部教授
嵯峨 生馬 / 認定NPO法人 サービスグラント代表理事

 

画面左上から、嵯峨、橋本氏、坂口氏

 

 第一部は、ソーシャルアクションタンク(以下、SAT)の提案者3名による鼎談です。橋本氏は2017年よりシノドス国際社会動向研究所所長を務めており、坂口氏は市民社会論、生涯学習論を専門としてデンマークのノンフォーマル教育機関やNPOについて調査をしています。
 鼎談では、SATにかける思いとして、橋本氏から「新しいリベラルを可視化したい」、坂口氏からは「日本の教育・労働・家族がマイナスのレベルで均衡している問題を解決したい」という研究者としての課題意識やSATへの期待が語られました。そして、これからの日本に必要なことは、社会科学と社会のより密接な“つながり”であり、本シンポジウムがそのきっかけとなれば、との嵯峨からのメッセージで、次の研究成果の発表へとバトンが渡されました。
≪基調鼎談 詳細はこちら≫

 

第2部 研究報告「プロボノリサーチプロジェクトから見えてきた社会課題の深層」

 

① 育休や短時間勤務による人事考課への影響とは
大槻 奈巳 氏 / 聖心女子大学人間関係学科教授
プロボノワーカー代表者

 

 

 社会学の分野でジェンダーと労働について研究している聖心女子大学の大槻奈巳教授と、4名のプロボノワーカーによる調査チーム「育短リサーチャーズ」による研究「育休や短時間勤務による人事考課への影響とは」の報告です。
 大槻教授は、「女性が生きやすい社会をデザインする」ことに強く共鳴。育児・介護休業法によって、育休や短時間勤務は取得できるようになってきましたが、特に短時間勤務に就いた女性が基幹労働者になっていない要因について、職場で女性が働き続けられない、働き続けたくない状況があるという“職場重視モデル”に着目し、育休や短時間勤務による人事考課への影響は長年温めてきたテーマだったそうです。
 今回のプロジェクトでは、インタビュー調査(10名)とアンケート調査(有効回答数253)を実施しました。

 

▶調査報告資料のダウンロードはこちら
プロジェクトの様子はこちら

 

<調査・分析結果サマリ>
・インタビュー調査、アンケート調査の結果、共に育児休業、短時間勤務取得はキャリアや処遇にマイナスの影響あり。
・育児休業・短時間勤務取得は昇進への影響があると約7割が回答。労働時間が長い方が評価されると思っている人ほどそう考えている
復帰後の仕事の割りあてに注意が必要(難易度の低い仕事への変更や、業務量を減らすことは「ネガティブ」に捉えられる傾向がある)。
・女性たちにはライフスタイルに合わせながら、仕事を意欲的に挑戦したいという姿勢がある。
・正社員でも、家事、育児担当は主に女性。
労働時間が短い方が評価されると回答したのは5%、長い方が評価されると回答は35%。
・フルタイム勤務・短時間勤務者の復帰後の給与は減額、短時間勤務者の方が減額幅大。
・フルタイム勤務者の約7割、短時間勤務者の約8割が育児休業前の月給水準に戻っていない
4人にひとりが上司のサポートが十分と思っていない
・求めるサポート:コミュニケーション・制度・環境・育休中の対応

 

調査報告書資料より抜粋

 

② 女性管理職が受けるセクハラ─実態と特徴
金井 郁 氏 / 埼玉大学人文社会科学研究科教授
プロボノワーカー代表者

 

 

 続いて、埼玉大学 人文社会科学研究科の金井郁教授とプロボノワーカー4名のチームによる研究「女性管理職が受けるセクハラ─実態と特徴」の報告です。
金井教授は、管理職になった女性がハラスメント被害にあうことが増えたという論文を読んだことがきっかけで問題意識を持ち、プロボノワーカーとの協働に魅力を感じて、専門の分野を越えて参加したそうです。
 本チームでは、「ハラスメントの実態をあぶり出せるような調査票を作る」ことをゴールに設定。社会政策学会誌に掲載された論文5本(英語文献を含む)を読み解き、ハラスメントの学問的な定義について理解を深めたうえで、調査票の設問が職場実態に即したものとなるよう議論を重ねていきました。

 

▶「ハラスメントに関する調査票」のダウンロードはこちら
プロジェクトの様子はこちら

 

<「調査票」概要>
◆調査票の目的
企業・チームにおけるハラスメントに関する認識の改善や、ハラスメントについて考えるきっかけづくり

 

◆構成
調査票は4つのセクションで構成
・基本情報:回答者の属性情報に関する設問
・ハラスメント経験:回答者自身が受けたハラスメント経験に関する設問
・周囲の対応:回答者がハラスメントを受けた際の周囲の対応に関する設問
・ハラスメント防止:ハラスメント防止組織の認知度および回答者自身の経験に関する設問

 

◆公開形態
完成した調査票はフリーダウンロード・利用者による任意の改変可として公開

 

◆作成のポイント
・調査票はさまざまな企業、職場環境、また雇用形態やジェンダー、年齢など、あらゆる場面を想定しています。
・調査票の活用にあたり、職場の実態調査とするだけではなく、回答する際に「こんな行為がハラスメントに当たる」という行為者側、被害者側双方への啓発を促すことも目的としています。
・今後、ハラスメント研究をする人や企業や労働組合などが、この調査票を下敷きにアレンジして使えるものを目指しました。
・調査票は、活用しやすいよう、Googleフォームで作成できるよう設計しています(Googleフォームはスマホでも気軽に回答でき、回答の集計も容易なため)。

 

調査票の一部

 

③ 日本企業におけるダイバーシティ&インクルージョン
大塚 英美 氏 / 神戸学院大学経済学部講師
プロボノワーカー代表者

 

 

 三つ目の報告は、神戸学院大学経済学部の大塚英美氏とプロボノワーカー7名のチームによる研究「日本企業におけるダイバーシティ&インクルージョン」についてです。
 大塚氏によると、ダイバーシティ&インクルージョンとはアメリカ由来の考え方で、アメリカの場合、ダイバーシティ=多様性といっても性別、年齢、人種、民族と属性の分け方も多く、さらに組織の中ではさまざまな葛藤や差別などが生まれてくるため、ダイバーシティマネジメント施策が取られるようになったそうです。インクルージョンについては、男性総合職がマジョリティである日本の土壌に合わせ、今回のプロジェクトでは横軸を「所属先への帰属感」、縦軸を「自分らしい働き方」とし、その両方が高い場合をインクルージョンとする概念を使用。本プロジェクトでは、「日本の企業組織において、あらゆるレベルで、女性が活躍しやすい職場環境をつくるための要因を明らかにすること」を目的に、インタビュー調査(32名)とアンケート調査(231名)実施しました。

 

▶調査報告資料のダウンロードはこちら

プロジェクトの様子はこちら

 

<調査・分析結果サマリ>
1. インクルージョンの効果
・インクルージョンは、社員の幸福感や昇進意欲にポジティブな影響が見られた。
上司との関係性と仕事の相互依存性がインクルージョンを促進する先行要因であることが見えてきた。チームマネジャーが相互依存的な仕事を与え対話を増やすことでインクルージョンを高められる可能性が高い。

 

2. 女性の昇進意欲
・女性の方が比較的昇進意欲が低かった。チームで女性比率の低さと女性のロールモデルが少ないことが昇進意欲の低下につながっていることが見えてきた。これまでも、ダイバーシティを推進してきたはずであるが、うまくいかないとしたら、これまでのやり方を見直す必要がある
・出産・育児休業の取得が昇進意欲を低下させると指摘されてきたが、今回パートナー・子供の有無による意欲低下は見られなかった。組織に対する公正感を不満に感じる人も多い傾向が見られたため、性別/育休の評価の改善が必要だと言える。

 

3. その他(越境・管理職の仕事内容)
部門を超えたプロジェクト経験が昇進意欲に、社外の活動経験が幸福感にポジティブに働く傾向が見られた。社員が今の所属以外の居場所や繋がりを作る施策が全体にプラスに働くと考えられる。
現状の管理職の役割と携わりたい役割のギャップが特に若い世代で大きかった。部門間の調整に多く時間が割かれ、やりたいことができないと思う人が多かった。社員全員が管理職の仕事を正しく知る機会が必要である。

 

調査報告資料より抜粋

 

 

第3部 パネルディスカッション「女性が活躍しやすい社会をデザインする」

 

[パネリスト]
大槻 奈巳 氏 / 聖心女子大学人間関係学科教授
金井 郁 氏 / 埼玉大学人文社会科学研究科教授
大塚 英美 氏 / 神戸学院大学経済学部講師
橋本 努 氏 / 北海道大学大学院経済学研究院教授
坂口 緑 氏 / 明治学院大学社会学部教授
石原 英樹 氏 / 明治学院大学社会学部教授
[モデレーター]
芹沢 一也 氏 / 「シノドス」編集長

 

画面左上より、大塚氏、芹沢氏、石原氏、金井氏、大槻氏、橋本氏、坂口氏、嵯峨

 

第3部は、『シノドス』編集長の芹沢一也氏の進行で、第1期協働研究プロジェクトに参加された大槻先生、金井先生、大塚先生と、SATの提案者である橋本先生、坂口先生、明治学院大学の石原英樹先生によるパネルディスカッションです。

 

女性活躍の現状と、研究の社会的意義

 

芹沢:今回のプロジェクトのテーマは「女性が活躍しやすい社会をデザインする」というものでした。そこで発表いただいた3人の先生それぞれに、まず日本企業と女性活躍という視点から、どのように現状を評価しているのかと、現状を踏まえて、今回、行った研究、あるいは今回の研究をより発展させていった先に、どのような社会的な意義を持ちうるのか。この点について、お伺いしたいと思います。では発表順に、大槻先生からお願いできますか。

大槻:女性に対してのあからさまな差別はなくなってきたと思います。一方で、「好意的性差別」と最近では呼ばれますが、例えば、仕事のタスクを下げるなど、よかれと思ってしたことが結果的にあまりよくないことになっているケースはあると思います。
私は仕事の割り当てについて、ずっと研究していますが、今でも「女性はこういう仕事が向いている」と周辺的な仕事を割り当てられていることが、まだまだあるというのが、私の考えです。その一つ一つをはっきりさせていくことが重要だと思っています。

芹沢:大槻先生のプロジェクトの調査結果で、生産性を高めて仕事をこなしても給与が下がった、また、フルタイムで復帰しても給与が戻らないというものがありましたが、これはどう評価したらいいのでしょうか。

大槻:フルタイム復帰のときに給与がなぜ下がったかというのは、まだアンケート調査はそこまで細かく分析していないので分かっていません。インタビュー調査からは、育休からフルタイムで復帰した人は少なかったので、あまりはっきりは分からないのですが、夜勤や休日出勤できなくなったために手当が減るという話は出ていました。

芹沢:もう一点の、生産性を高めて以前と同じような仕事量をこなしても給与が下がるとなってしまうと、「どうすればいいんですか」という話になると思いますが、その辺りはいかがでしょうか。

大槻:必要なのは、時間単位で評価するような仕組みにする、ということだと思います。それは短時間勤務も同様で、勤務時間は短くなったけれども、勤務している時間の生産性は上がったという人がほとんどなのです。でも給料は下がってるっていうのは、つまり長時間勤務していることの方が重視されていて、1時間当たりの生産性ではないわけです。

芹沢:つまり、日本の企業には生産性を評価する尺度がないということですね。

大槻:はい。育休とか短時間勤務がプラスになるような評価システムを私は知らないので、今後、そういう取り組みを調べたり考えたりするというのは、すごく重要な示唆をいただいたと思います。ありがとうございます。

芹沢:ありがとうございます。では続いて、金井さんに同じ質問をしたいと思います。よろしくお願いします。

金井:私自身の研究は雇用管理ですが、企業の中核的な人材、いわゆる大企業だと総合職といわれているような正社員は、時間的にも、転勤があるという意味では空間的にも、拘束性が非常に高い状態が求められています。拘束性を下げると、例えば一般職や非正規といった選択肢は女性に与えられていますが、賃金も地位も下がる。その状況自体が女性活躍を阻んでいる大きな問題だと、ずっと考えています。
こういうことは経済学や社会学でかなり研究されてきた分野で、ハラスメントに関しては法学の分野で若干、研究が進んできてはいますが、職場での女性が“活躍”以前に、ただ仕事をするということをすごく難しくする要因としてハラスメントの問題があることを、私自身も最近、研究やMe Too運動で知りました。ハラスメントという問題はなかなか日本社会では認知されておらず、どうしても破廉恥な問題とか、みんながあんまり聞きたくないようなこととして研究上でも明らかにされていないので、一つ一つ実態を明らかにしていくことが重要だと思います。

芹沢:今回、アンケートを啓蒙ツールとして活用するという視点がすごく面白いなと思ったのですが、こういうアンケートの使い方は多いのでしょうか。

石原:その件について、こうしたセンシティブな調査の場合には、データがきちんと管理されていることを示し、調査マニュアルも併せて共有していく必要があると思います。そのうえで啓蒙に使うのはとても良いことだと思いますし、この調査票は非常によくできていると思います。

芹沢:では、石原さんの発言を受けて、金井先生いかがですか。

金井:日本人の大きな特徴として、主観的に「あなたはハラスメントを受けたことがありますか」と聞くと、「ない」と答えてしまいます。けれども、客観的に「こういう項目は経験がありますか」と聞くと、「ある」という回答の割合が高くなるのです。そのギャップがとても大きく、まずハラスメントだと認識されていないこと自体がおそらく問題で、何となく嫌な思いをしながら働いていたり、嫌な思いをしたから辞めてしまうことが、女性が活躍できない、働き続けられないことにつながっている。そういったことが調査票を受けるだけでも分かるといいなと思っています。

芹沢:一つの社会運動と言うと大げさですが、そういうふうになりうるということですね。ありがとうございます。では最後に大塚先生からも、現状評価と今回の研究の社会的意義について、お願いできますか。

大塚:アンケート調査でもインクルージョンについて男女差はそれほど大きく出ているわけではありませんでした。なので、どちらかというと女性のほうがある意味、働きやすくなりつつあるという傾向は見えていると思います。女性の昇進意欲は男性とさほど変わりませんでしたので、もう少し会社側としては昇進に対する機会を平等に与えると同時に、仕事の割り当ても子育て中だからと過剰なケアにならないよう相談しながら同等にしていくことが、今回の調査から見えてきたステップかなと思っています。
一方で、男性が育児休業を取った後に評価が下がることについて強く主張されている方もいました。こちらも最近、見えてきている傾向ではないかと思っています。

芹沢:ありがとうございます。一つ質問ですが、インクルージョンに関しては男女差がそれほどなかったようですが、女性の管理職という視点から見たとき、効いてくるのはロールモデルの有無なのかなと思って伺っていました。ロールモデルとインクルージョンの関係はどのように考えられていますか。

大塚:おそらくロールモデル施策、あるいは女性管理職を増やしましょうという取り組みをやっている会社の多くは、女性に少し下駄を履かせるために、という考え方でやっているのではないかと思います。ただ、現状、それすら進んでいない会社も多くある。10年以上やっていると思うのですが、それが進まないから別のアプローチが必要なのではないかと、インクルージョンの提案をしたという背景です。

芹沢:非常によく理解できました。ありがとうございます。

 

プロボノワーカーとの協働で得られた新たな視点

 

芹沢:ここで石原先生に、今日の発表について総括をお願いできますでしょうか。

石原:私は社会調査が専門なので、調査という部分に注目していたのですが、とても素晴らしく、びっくりしました。それぞれ先生方がいて、それをプロボノワーカーたちがしっかり受け止めていて。プレゼンもとても分かりやすくて良かったですね。これで終わらせるのではなく、例えば金井先生のプロジェクトの調査票を配る、あるいは大槻先生のプロジェクトの好意的性差別というのは面白い発見だと思いますので、この辺りはぜひ何らかの形で、これからも調べていただきたいです。
今回、「女性が働きやすい社会をデザインする」というテーマで、それぞれがかなりいい線を追い込んでるような気がしましたが、芹沢さんはいかがですか。

芹沢:私も全く同じ感想を持っていて、まずプロボノワーカーの方たちがめちゃくちゃ優秀だなと。その多くが女性ですので、こんなに優秀な方々が管理職に進んでいかないのはおかしいと、すごく思いました。
では、プロボノワーカーと一緒に今回、研究発表をされた感想を3人の先生それぞれからいただけますか。

大槻:皆さんが自主的に考えて動いてくださったので、すごく助かりました。また、アンケート調査の分析でも、プロボノチームの視点に気付かされたところもあり、とても面白かったです。どうもありがとうございました。

金井:プロボノチームの方がささっとGoogleフォームを作ってくれたことなど、私はIT知識が全くないので本当にすごいなと思いました。こういうテクニックがあることを私自身も学べましたし、こうして力を合わせることがプロボノの良さなのだと思います。

大塚:私も本当に素晴らしいメンバーに恵まれまして、研究をぐんぐん進めていくことができました。一番良かったのは、企業に勤めていらっしゃる、第一線で活躍されている方々ですので、本当にリアルなお話が聞けたところと、その方たちからのインタビューは、私たち研究者がインタビューするのとまた違う情報が得られたという点で、すごく良かったと思います。
もちろん先ほど金井先生がおっしゃったように、ITスキルが非常に高いので、エクセルやアンケートを作成するにしても、とてもスピーディーに進めることができました。ありがとうございます。

芹沢:ありがとうございます。プロボノとアカデミアの協働は、かなり可能性があると思います。石原先生がおっしゃるように、今後も進めていきたいと思います。

 

研究者より企業へのメッセージ

 

芹沢:最後に、本シンポジウムには、「今後、女性活躍をどう進めていけばいいのか」というヒント、あるいはアイデアを求めて参加されている企業の方が多いと思います。そこで企業に向けて、それぞれお三方から、メッセージをいただけますか。

大槻:私からは、特に短時間勤務を取得したからといって、評価を下げないでほしいということがあります。インタビューから出てきているのは、上司がここをどういうふうに評価したから下がる、というものではなく、育休・短時間勤務を取ったから下がるという状況です。インタビューではほかにも、育休を取るとABC評価の下にDができてD評価を付けられるとか、産休・育休前は目標シートを書いてきたが、それをいらないと言われたとか、昇格に関して直属の上司は推薦してくれても、その上にいくと育休・短時間勤務取得ではじかれるといったことが出てきました。もう評価以前の問題があることが分かってきているので、育休や短時間勤務を取ったことで別の評価枠にしないでほしい、それが企業の方への大きなお願いです。
それからもう一つ、本当にお願いしたいのは、女性を別カテゴリーにしないでほしいということです。短時間勤務も育休も、男性も取るようになっていますし、短時間勤務は介護でも取ることができますから、女性だけ特別扱いではなく、全社員がより良く働けるためにやることの一つが育休取得や短時間勤務への対応だということを考えていただきたいと思います。

金井:これは企業だけではなく、行政の問題でもあると思うのですが、日本はマタハラとかパワハラとかセクハラとか、“何とかハラスメント”がどんどん増え、細分化が進んでいます。そのなかで、ハラスメントが一体何なのかということが、おそらく企業も労働者自身も理解できない状況が生まれてしまっているのではないでしょうか。パワハラの法律を作るときも、「これをしなければいい」とか「これをしたら駄目」と例示されることによって、むしろ「それ以外ならいいんだ」という話になってきてしまっていることが本当に問題だと思います。ハラスメントは人権につながる問題であり、人を尊重して人として対等に接することが全ての根源にあるはずです。今回、私たちのチームで読んだようなハラスメントの学問的な定義や研究を、企業や行政の場でも読んでいただき、理解していくことが必要なのではないかと思います。

大塚:私が今回のインクルージョンの調査を通じて、個人のインクルージョンの高さは何によるか、高い場合は何に還元できるかと分析するなかで、「幸福感」というキーワードが出てきました。これまで会社では業績評価をやってきましたが、それとは別に、マネジメント側が、(配慮し過ぎるということではなく)個人から「どうしたいのか」をきちんと引き出すことが必要なのではないかと考えています。
一つの事例でいうと、インタビュー調査結果で、昇進はしたいが、育児をしているために子どもに手が掛かることを会社の中で言った瞬間に、それだけで評価が下がったり、仕事が簡単な仕事しか回ってこなくなってしまう風潮があるために、自分の家庭での苦労を言わない人が結構いることが分かりました。そうした、個人がどういう状態にあるのかを引き出す力も、企業側には必要なのではないでしょうか。そして、そういう人たちも同じラインで昇進や待遇がかなうような仕組みをつくっていく必要性があるのではないかと考えています。

芹沢:ありがとうございます。では、坂口さん、橋本さんからも総括をお願いします。

坂口:皆さん素晴らしい研究で、これをどうやって生かそうかと考えていました。一つ一つの大きな問題が見えている。でも本当に突破していくのは一つ一つの論点であるということを、3人の先生の研究からあらためて感じました。そしてこれをどうやって引き継いだらよいかということを、また先生方と考えたいなと思いました。ありがとうございます。

橋本:この1年間ありがとうございました。非常に刺激的な成果が出ましたね。今日の様子や感想はTwitterで同時にツイートさせていただきました。ありがとうございました。

芹沢:これをもちまして、パネルディスカッションは終了とさせていただきます。ありがとうございました。

 

ソーシャルアクションタンクへのお問い合わせはこちら

 

 

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